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2006年8月19日 (土)

(他)松本清張、小考

松本清張氏が存命の頃、その作品は結構読んだ。いま振り返れば、作品数の膨大さ、その世界の多様さ・深さに比べて、読んだとは言えない量だと痛感するが、推理小説の面白さは自分なりに堪能させてもらったと思う。

その頃思っていたのは、「さしもの松本清張も、年取るといかんもんやな」という事だった。何がどうだと言えば、長編の中で繰り返しがやたらと多くなってきたからだった。探偵の、事件の分析・推理が、何度も何度も作品中に出てきて、正直「なんじゃ、こりゃ」と思う作品がいくつもあった。しばらくして繰り返しが減り、「誰かの意見を聞き入れたんだろう。偉いな」というふうに思った。

もうひとつ思っていたのは、「探偵が何かに気づいた」というような表現や、「探偵や犯人が、そこで何かをした」というような隠した表現が、繰り返しが多くなる前に長編短編を問わず結構あり、正直「こんなん、反則じゃろが」と思っていた。

知り合いも「推理小説は、すうーっと読める」とか言う者が多かったが、「これじゃ、すーっとは読めんで」と、ずっと思っていた。

最近思う。十年以上前からかもしれない。私が間違っていた、と。

どちらも、清張の「推理小説をもっとよく楽しんで欲しい」という思いを込めた、読者が楽しむためのサービスだったのではなかろうか、と。

そんな事は、推理小説に詳しい人なら、当然初めから分かって楽しんでおり、知らないのがただの無知なのだろうけれど、以下「清張氏のサービス」と思われるものについて、私なりの考えを示しておこう。

まず、例えば「目が凝固となった」というような、探偵が何かに気づいたという表現。これは、アメリカなど(? 詳しく知らないので、ご容赦下さい)であった「読者への挑戦状」と同じものではなかっただろうか。

つまり、「読者への挑戦状」と同じく、

「さあ、探偵と同じように推理して下さい。探偵は、何に気が付いたのでしょう? あなたは、犯人が分かりますか? 動機が分かりますか? 犯行の背景が分かりますか? 推理のための資料は全て出ています。もちろん、謎解きの所で『今まで無かった資料』が出ることもありますが、大筋は出ています。探偵と違う方法で推理してもかまいませんよ。紙と鉛筆のご用意はよろしいですか? もう一度、いや、何度でも読み返して頂いて結構です。そんじょそこらのパズルより、出来は良いですから。では、どんでん返しにお気をつけて」

という事ではなかったかと、つくづく思う。犯人の犯行を「何かをした」と表現するのも、同じ意図であったと思う。

推理小説を楽しむというのは、真面目に考えれば、不謹慎なものだろう。扱うのは「犯罪」であり、その多くは「殺人」だからだ。現実世界で、実際の殺人事件を「楽しんで推理」したりしたら、そりゃ、やっぱ「とんでもない事」で、たぶん誰も「楽しんで」などはいないだろう。「推理」は働かせるかもしれないが。だが、小説なら虚構だ。パズルを楽しむように「推理」したところで、人間性に疑問を持たれる訳では無い・・・たぶん・・・。清張のような社会派なら、謎解きは犯人や犯行そのものだけで無く、その背景のいろいろな世界にも及ぶ。作品中に登場するいろいろな世界も味わいつつ、その世界を基にして謎解きをし、なおかつ、その世界の解明も事件をもとに行なう、つまり「推理する」事も出来るのだ。50も過ぎて、「惜しい事をしたもんじゃなー」と、つくづく思う。

次に「繰り返しの多さ」。これは、私が思うに、上記の「挑戦状」を理解しない読者(私のような者)が多く、「それならば」と方向転換したものではなかったのか。つまり、「挑戦状」を分かってくれないので、では探偵と同じ気持ち・その時その時の「推理・事件解明状況」をご堪能下さい、というサービスだったのだと思う。ただ単にすーっと読むだけの読者にも、推理の面白さを分かってもらおうとしての工夫だったのだろう。何度も何度も、しつこいくらい同じ事を同じように考える。確かに、考えてみれば、自分も仕事ではそうしているかもしれない。推理小説の探偵のようにはいかないが、時々思い出しては、「あの部分はこうじゃったな」とか「あそこは今度、ちよっとこう変えてみようか」とか思っている。大概の人が、仕事に対してはそうではないのだろうか。だから、何度も推理するのも、出来ん事では無いのだろう。なかなか、思うだけで、実際には出来んのだが・・・。清張氏のその工夫が、最も上手くいったのが、晩年の傑作「熱い絹」だったのではないかと、私は思う。

今は、あまりヒマが無いのだが、どこかの出版社が「もう一度、松本清張」という感じで、清張全作品を発表順に再出版してくれたら、上記のような考えも検証しつつ、読んでみたいものだ。

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